• 研究紹介
  • 2020.08.20

インドネシア東部ジャワにおける新型コロナパンデミックによる休校措置下の「日本語リモート学習」の成果

はじめに

インドネシアでの新型コロナウイルスの感染のケースは2020年3月2日に初めて報告された。そして、インドネシアの学校は2020年3月16日から無期限で政府によって休校とされた。健康と安全性を維持するために、教育と学習はリモート学習で行われた。ここで私は、学校が休校してから行ったアクションリサーチという研究を紹介したい。この研究は、新型コロナウイルスパンデミック下における日本語のリモート学習(オンライン授業)について考察することを目的としている。アリクント(2014:131)は、アクションリサーチの設計がカート・レヴィンによって計画、行動、観察と内省(reflection)を含む4段階から成ると示した(原文インドネシア語、筆者訳)。本研究は2020年3月から2020年5月にプロボリンゴ第一高校の社会系の11年生Aクラスの生徒を対象に実施した。データ収集は観察、テストとアンケートを使用した。また学習はGoogle form, Telegram, Quizizz, YouTubeを利用して行った。

研究内容について

私はアクションリサーチで3回のサイクルを行った。各サイクルではカート・レヴィンによる4段階を用いた。

サイクルI

私は生徒とコミュニケーションするためにTelegramグループを作った。授業の教材やお知らせなどをTelegramグループで投稿した。実はリモート学習下では生徒をコントロールすることは難しいと思っている。授業のタスクはGoogle formにアップロードしてもらって決まった時間で提出してもらうようにしたが、遅れて提出した生徒がたくさんいたので、私はタスクを遅れて提出した生徒に理由を確認した。(生徒によっていろいろな理由で、)たとえばインターネットの電波が弱いとか、インターネットの容量が足りないとか、つい忘れてしまったなどという理由が分かった。

サイクルII

この2回目のサイクルで私は学習ビデオという自分の教材を作ってみた。それから3種類の活動を生徒にやってもらった。

第一の活動

自分で作った学習ビデオリンクを生徒にシェアした。私はこのビデオをYouTubeに掲載した。生徒はビデオを見て、内容をノートに書き、書いたものの写真をとってGoogle formで送信する。次に、生徒に自分の毎日の生活について話してもらい、Google formに送信してもらった。

第二の活動

私は新型コロナウイルスについての話を生徒にシェアして、生徒にはその話に基づき周りにあるものを使ってプレゼンテーションのビデオを作ってもらい、Google formに送信してもらった。

第三の活動

私は前の活動でタスクになる本文を日本人の友達に音声を録音してもらった。それから録音したファイルは生徒にシェアして、その音声に従って生徒にまたビデオを作ってもらった。ビデオができあがったらYouTubeに投稿し、YouTubeのリンクをGoogle formに送信してもらうようにした。

サイクルIII

私はQuizziz*でクイズを作成してリンクを生徒にシェアした。Quizzizのやり方も説明した。生徒がオンラインでクイズをすると点数がすぐに分かり、私のサーバーに自動的に保存された。私は生徒のモチベーションを高めるために、生徒が何回クイズをやってもいいようにして、一番いい点数をとってもらうようにした。

リモート学習についてわかったこと

リモート学習を行い、学習の活動の観察やアンケート、最後のオンライン試験を通して、明らかになったことは下の通りだ。

1.アンケートの結果、ほとんどの生徒はリモート学習ができる環境とデバイスがあることが明らかになった。

2.リモート学習において、生徒が示すよい態度は以下のようだ。

一つ目、生徒は一生懸命にリモート学習を受けた。

二つ目、生徒はまじめに学習ための参考文献を調べた。

三つ目、生徒は先生の指示に従って規律をまもった。

四つ目、生徒はタスクを慎重に行った。

しかし、学習態度をよりよくするために、努力する必要がある。例えば、先生に気軽に質問したり、友達と話し合ったり、不正をしないでタスクをしたりすることだ。言い換えると、生徒が積極的に学習に参加して、規律を守り、情報収集をし作業に取り組んでいることを示している一方、今後は生徒が不正をしないでテスト受けるような真面目な取り組みも求められる。そして教師に積極的に質問するなど、意欲的な態度にする必要もある。

3.リモート学習の問題について、アンケートの結果で半分以下の割合であったものの、注意を払わなければならないことは以下の通りである。

一つ目はタスクを提出する技術的な問題である。ほとんどの生徒はスマホを持っているが、インドネシアでは主にプリペイドのインターネットを使っているため、お金がないときにインターネットの容量を買うことができない。またインターネットの容量があっても電波が悪いとつながらない。こうした技術的問題からタスクを提出できなくなる。

二つ目は、誤解がないよう先生から生徒に的確に情報やアドバイスを伝える方法である。

三つ目はタスクをすることが重い負担になるという問題だ。

そして、四つ目はタスクをやる時間が足りないと思われる問題である。インドネシアの高校では必修科目が16もあり、生徒たちは一週間に16科目を勉強する。各科目の先生が一週間に一回タスクを出したら、生徒たちは一週間に16タスクをやらなければいけない。生徒たちはタスクをやる時間が足りないと思い、重い負担と感じてしまう。

五つ目は、生徒たちは一般的に普通の学習いわゆる教室で行う学習のほうをリモート学習より好み、リモート学習を受けることを難しいと感じることである。主な理由はスマホまたはパソコンを持ってないという外部要因ではなく、内部要因である。つまり、友達と一緒に学習できて、分からないときにすぐに先生にまた説明してもらうなど、先生とコミュニケーションをとるのが簡単だから、普通の学習を好み、リモート学習を難しいと思う。

このように、このリモート学習の課題は、生徒からの送受信に関する技術的な問題、教師から生徒への理解しやすい情報伝達の方法、タスクの与え方、生徒がリモート学習で学ぶためのwi-fi環境などの問題がある。

4.試験結果に基づいて、リモート学習を適用した後の生徒の日本語能力は、十分なレベルから優秀なレベルまで上昇した。各サイクルを行った生徒のテストを受けた割合は、最初のサイクルの65.71%から、2番目は82.86%、3番目は85.71% に増加した。生徒の平均点数は、第1サイクルの83.97点から第2サイクルは88.71点に増加し、第3 サイクルではさらに平均93.42点に達した。学生の学習成果のレベルも、中程度から優秀なレベルに上がった。

提案

上記の結論に基づいて、リモート学習を導入する際、教師は、生徒がリモート学習を受ける体制が整っていることや、不正をしないでまじめに課題に取り組むことを確認し、生徒が恐れず積極的で気軽に先生に質問したり相談したりすることができることを確認し、よいコミュニケーションをとれるように努力する必要がある。生徒がたくさん情報収集できるタスクなど、興味深いプロジェクト作成のタスクを与えることが好ましい。そのほか、学習がより面白くなるように、さまざまな学習モデルにも適用したほうがいいと考える。

 

参考文献

Arikunto, Suharsimi. (2014). Prosedur Penelitian Suatu Pendekatan Praktik. Jakarta: Rineka Cipta

 

*Quizziz:ゲーム要素の入った復習用のクイズ形式のテストを作成できるアプリ。採点は自動で行われ、その場で生徒に成績や感想がフィードバックされる。教員は誰がどの問題を間違えたかの詳細データを参照することができる。Quizzizではいくつかのゲームタイプを作れる。本研究で作ったゲームタイプはFill in the Blank のタイプだ。生徒のスマホはひらがなをかけるキーボードが少ないため質問はひらがなでも答えはローマ字で書いてもかまわないように調整できる。それから、Quizzizでは各問題の制限時間を調整できる。本研究では各問題が約1分か2分ぐらいで制限時間を設定した。時間を超えてしまったら採点はゼロになって次の質問に進む形だ。

著者略歴

ルザ・クォドゥリヤンティ(Luza Qodriyanti):インドネシア・スマトラ島出身。国立スラバヤ大学より学士号、インドネシア教育大学より修士号取得後、現在、東ジャワ州にあるプロボリンゴ第一高校で日本語教師として教鞭をとる。主に、10~12年生を対象とした初級日本語科目を担当する。日本のアニメや漫画、映画のみならず、日本語の能力を高めるために、日本のニュース番組を観るのが趣味。第一回NF-JLEP日本訪問プログラム参加フェロー。