• レポート
  • 2020.12.23

「パンデミックのせい?パンデミックのおかげ?日本語教育の在り方」

 今年は世界中のほとんどの国がコロナウィルスと戦っている年になっている。今年の2月までは平和なインドネシアだったが、コロナの感染も入ってきてしまい、広がってきている。インドネシア教育大学(UPI)もインドネシアの文部省が決めたルールに従い、感染拡大を抑えるために、3月から大学には学生も教師も来させないで、各自の家から授業をするようになった。

 オンライン授業に変えざるを得なかったことで、教師誰もやったことのない授業のやり方だった。私は、たまたま日本語学習コンテンツを一般向けにシェアするために、ユーチューブを半年前からやり始めたので、学習コンテンツを提供するのをどうすればいいか少し想像できた。

 技術に慣れない状況の中、ほとんどの教師が最初に試したのがWhatsAppで、学生とコミュニケーションをとり、PPTを配ったり、ズームで授業をやったりした。しかしPPTだけでは、説明が足りない、一方的にしかできない。また、ブレンド型学習でも実施したことがない我々オンライン授業と言うのは、クラスと同じ時間でオンラインで授業をすると100分の授業をまるまるズームで授業をやったことに対して、学生の批判があった。ズームをアクセスするのに学生にインターネット代を負担かけてしまったことが後から分かった。1時間のズームを使うのに1ギガも、2百円ぐらい、一週間で、すべての授業に20時間かけたら、かなりのコストになると想像できた。それで、2週間後にはほとんどの教師がWhatsAppに戻って、やり方を考え直した。

 大学側も素早くインターネット代手当を学生に提供したが、それでも学生にまだ負担が大きい。そのかわり、文部省からやっと10月から、学生と教師に対して40ギガまで使用できるインターネットクオタの免除ももらえるようになってきたが、インターネットの電波が悪い田舎に住んでいる学生とかは使用できないこともわかってきて、教師側もまた授業の形を変えたりしている状況にいる。

 授業時間もまるまる100分の講義を受けさせる形ではなくなって、30分のユーチューブでのビデオ説明を見てもらい、30分のオンライン講義を受けてもらい、30分の自立で課題をやってもらうようになっている。ビデオ教材作成も課題のフィードバックにもかなりの時間が必要なので、教師の負担も大きいと感じた。学生にもやりがいのある授業に、教師側にもほどほどの負担で、教師側は教材を長く使用できるように、学生の声に耳を傾けながら、様々なアプリケーションを試し、オンラインの教材開発し、授業の形を改善し続けている。

「オンライン日本語学習のセミナー開催」

 ちょうど、大学の社会貢献のプロジェックで、我々UPIの日本語教育学科の教師たちがオンライン授業の実施にどのような工夫をしてきたか、「オンライン日本語学習に応用できるアプリケーションの使用」というテーマで、今年の10月31日に全国の高校の先生50人を対象にセミナーとワークショップを行った。少ない人数の高校の先生しか招待できなかったので、この場をお借りして、そのプロジェクトの内容をユーチューブチャンネルにアップしたビデオのリンクを張りながら、ここでもシェアしたい。

インドネシア教育大学日本語教育学科の社会貢献のプロジェクトのパンフレット

 文部省で日本語教育関係者の育成を担当し、エンパワーメントセンター(PPPTK Bahasa)代表である、UPI卒のエンダン・スシロワティ先生から、高度な思考スキル(HOTS)を習得できる日本語学習内容について話していただいた。まずは、教師に授業という環境(Contexts)で効果的にテクノロジーを利用するために必要な知識の基礎となる「教える内容、教え方、テクノロジーの使用(TPACK)」という概念を説明し、HOTS習得に向けての日本語学習内容の教え方について説明していただいた。HOTS入りのビデオ教材とHOTS無しのビデオ教材という実例のビデオ教材を見せながら、高校で教える初級日本語でも、ただ生徒に教えるだけでなく、生徒に分析の力まで生み出せる教え方が実現できると語った。これで、生徒にも限られている暗記する力から暗記力も強くなる分析の力で日本語を教えることができることが高校の先生の皆が分かってくれた。エンダン先生が教えてくださった内容がとても面白くて、とてもわかりやすく教えてくれたので、ぜひ、より多くのインドネシアの日本語の先生に“Materi Pembelajaran Bahasa Jepang Daring Berorientasi HOTS”「オンライン授業におけるHOTSに向けての日本語学習教材」を見ていただきたい(インドネシア語):

 次に、我々UPIの教師たちからの情報提供になる。オンライン授業で応用できる様々なアプリの実践報告で、文法の授業はディアニ・リスダ先生、会話の授業はヴィア・ルヴィアナ・デウィ先生、聴解授業はノヴィヤンティ・アネロス先生、作文授業はアフマッド・ダヒディ先生とリンナ・メイリナ・ラシバン先生、そして、読解授業は私が、それぞれ代表で発表した。

「文法のオンライン授業への取り組み」

 ディアニ先生はこのオンライン授業のきっかけにユーチューブをやり始めた。最初はPPTに文法の項目と音声の例文、イラスト、動画などからの実例を入れて、できたPPTで説明するのを動画キャプチャーソフトOBSで録画して、そして動画編集ソフトFILMORAで動画編集してきて、ユーチューブに動画をアップした。最近は自分の負担と利便性を考えて、PPTで音声も入れて、できたPPTのファイルを動画ファイルに変換する方法を選んだ。ディアニ先生の経験からPPTを作成する際に、注意すべき点は各スライドの文字情報が多すぎないこと、文法の意味を教えるのに、直接意味を入れるのではなく、イラストと例文をたくさん見せることが大事と語った。そして、授業時間内に、ユーチューブもStreamingで学生と一緒に見ながら、チャット欄で学生の質問を答えながら、授業を進めていく形で、両方のコミュニケーションが取れる授業になれたと述べた。学生の反応も授業時間と同じ時間でやるので、集中できる授業になったとの印象だった。ディアニ先生の日本語文法の授業にPPTとユーチューブの生かし方の詳しい説明は “Media PPT dan Youtube untuk Pengajaran Daring Bunpou Bahasa Jepang”「日本語文法オンライン授業におけるPPTとユーチューブのメディアの応用」からご覧ください(インドネシア語):

 ディアニ先生の動画は見た目もかわいくて説明もわかりやすいから、一般の日本語学習者にも評判のあるユーチューブチャンネルになってきた。Nihongo Corner のチャンネルを是非見てください。

「会話のオンライン授業への取り組み」

 フィア先生は学科に入ったのがまだ1年目で一番若い先生だ。アニメがとても好きで、技術知識は詳しいので、初級会話を担当している中、PPTとズームを最大に使用されている。PPTを作成するのに10・20・30という10スライド、20分の説明と30の文字の大きさのルールに従うのが先生に必要な能力だと述べた。これで、学習内容も多すぎず、学生に理解しやすくなる。又、会話モデルもアニメ的なイラストを最大に使い、アニメが好きなほとんどの学生の心をつかめて、学生自身から話したいという行動を促せた。ズーム以外にGoogle Meetも使ったことあるが、画像的に質のいいのがズームがベストだそうだ。このズームは100人まで授業に使えるように、学科が2つアカウントを持っており、他の授業にも使用されている。ズームで学生同士の会話の練習もできて、初級レベルの会話では効率よく使えそうである。学生側も楽しく授業を受けるとアンケートの結果でわかった。PPTとズームをどのように会話の授業に生かせるか、フィア先生のより詳しい説明はこちらから見ることができる: “Media PPT dan Zoom untuk Pengajaran Daring Kaiwa Bahasa Jepang”「日本語会話オンライン授業におけるPPTとユーチューブのメディアの応用」(インドネシア語)

「聴解のオンライン授業への取り組み」

 聴解授業はどうすれば実施できるか。これは4技能の中でかなり難しい授業実施になる。中級レベルの聴解授業を担当しているノヴィ先生はPADLETを使用してみた。PADLETとは教師の投稿(写真、オーディオ、ビデオ)に対して学生がコメントできるFACEBOOKに近いSNSである。授業に使えるのが授業を受ける人しか入れないこと。これで、4つのクラスまでこのPADLETが無料で使用できる。学生が音声を聞いたり、動画を見たりした情報をMINDMAPPING法でもう一回説明してくれる進め方で、各学生がPADLETに写真や動画の形で表現したのを投稿する。授業に参加する学生同士の投稿も見られるので、コラボ学習が効果的に実施できると学生にたいするアンケートから分かった。

 PADLETはほとんどの高校の先生も使ったことがないので、これからチャレンジしようとたくさん先生の声があったと分かった。PADLET使用に関するノヴィ先生の詳しい説明は Media PADLET untuk Pengajaran Daring Bunpou Bahasa Jepang”「日本語聴解オンライン授業におけるPADLETのメディアの応用」から見られる(インドネシア語):

 

聴解授業に生かしたPADLETの使用

教師が画像、オーディオ、動画の教材を投稿できるPADLET

「作文のオンライン授業の取り組み」

 中級作文では学生がアイデアを広げること、複文を書くこと、そして、学生の書いた作文にも教師側の負担が大きいことが課題になっている。これを解決したいアフマッド先生とリンナ先生が学生の世界に近いInstagramのSNSを使用してみた。まず、ズームで学生が書きたいテーマを相談して、そしてWhatsAppで学生が書いた文章を先生に直してもらって、そして、いったんできたものをInstagramのhika.rutaに投稿した。このようにInstagramで学生の書いた作文をどんどんアップできた。

短編話の作文や漫画的な写真でInstagram「hika.ruta」に投稿

このInstagramを作文に応用することによって、学生の日本語のアウトプットの動機になることで学生がたくさんの作文を書けるようになった。学生が書いたものを先生からだけでなく、他の人からもフィードバックがもらえることもこのSNSの利点になる。書ける文章が短いので、上級レベルの作文授業では向いていないことが分かった。作文授業に応用するInstagramの使用について、より詳しい説明は “Media Instagram untuk Pengajaran Daring Sakubun Bahasa Jepang”「日本語作文オンライン授業におけるInstagramのメディアの応用」から見ることができる(インドネシア語):

「読解のオンライン授業の取り組み」

 数年、中上級読解授業を担当している。クラスでやった時は文章の内容が古い教科書と今の日:を把握するために決まった日本語のオンラインニュースを主に教材として使用したが、オンライン授業に変わることで、自由があり、学生に学習内容を選択させる機会ができて、より効率的な学習スタイルで学生に学ばせることができたと思う。

 授業の進め方についてGoogle Classroomで伝える。例えばこの3回目の授業のための投稿。

3回目の授業(2020・09・16)では以下の順でやってもらいます。

1.まず、「(12)格言名言」の文章を読むのを録音してグーグルドライブ http://bit.ly/2020chujodoku1-12-S-Audio に録音したオーディオをアップしてください。ファイル名は「12-1名前.mp3」です。

2.それから、この動画を見てください:https://youtu.be/wIJX3JjQ3h0

3.そして、オーディオを聞いてシャードイングをしてください。オーディオのファイルはhttp://bit.ly/chujodoku1-12-T-audio  からアクセスしてください。

4.また「(12)格言名言」の文章を読むのをもう一度録音して、グーグルドライブ http://bit.ly/2020chujodoku1-12-S-Audio  に録音したオーディオをアップしてください。ファイル名は「12-2名前.mp3」です。

5.次に、クイズです。 classworkのところにあるグーグルフォームでやってください。

1から5までは今日中にやってください。

6.最後に課題をやってもらうこと: http://bit.ly/nhk202007 のplaylist(7月の日本のニュース)からテーマが面白そうな3つのニュースを選んで、動画のDescriptionに書いてあるリンクから元のニュースを読んでください。そのニュースの日本語が理解できない場合はインドネシア語の説明の動画を見てください。各ビデオにニュースに関する意見のコメントを日本語で入れてください。これは次の週の授業日までにやってください。

 この授業のやり方で、学生からもいい評価を受けた。初級レベルでは学習によって日本語の成長を感じるのが、中上級レベルになると感じなくなって、学生の動機が落ちることが多い。それで、学生自身が文章の意味が分からない時の音読と分かった時の音読を比較することによって、学習成長を分からせ、学生の日本語能力に自信を持たせることができた。

 また、オンラインニュースに対する理解をサポートするために、定期的に日本語のニュースをインドネシア語で解説する動画もユーチューブでアップすることによって、学生がいつでもアクセスできる。新しい単語、長い文章をどう訳すかを勉強できるし、日本語の文の構造をわかるようになってきたし、そのニュースから日本の最近の状況を分かることで日本語の会話と作文に表現する内容も豊かになったと学生のアンケートから分かった。私のユーチューブチャンネルdewi&jepangでUPIの授業だけでなく、日本語能力試験の勉強の動画もあるので、学生が必要なコンテンツをすこしでも支えることができたらと思う。又、他に多読ためのオンライン読み物も紹介したので、詳しい話は Media Membaca Online dan Youtube untuk Pengajaran Dokkai Bahasa Jepang”「日本語読解オンライン授業におけるウェブニュースとユーチューブのメディアの応用」から見ていただける(インドネシア語):

 Youtubeでオンラインニュースをインドネシア語で訳す動画

以上、我々、インドネシア教育大学の教師たちがパンデミックにやっているオンライン授業の取り組みを述べた。パンデミックのせいというより、パンデミックのおかげで、学生を自立させる学習の必要性に気づき、より効率よく日本語を教える新しいスタイルを身に着けることができた。パンデミックが無くなっても、オンライン授業の形は残り、クラス学習とオンライン学習の授業のスタイルになると思う。それにむけて、学科のユーチューブも作成し、このチャンネルを通して、インドネシアの日本語教育界に日本語の学習、教え方、日本語教師に必要な知識などを発信していきたい。

インドネシア教育大学日本語教育学科のユーチューブチャンネル

著者略歴

デウィ・クスリニ (Dewi Kusrini):日本語教育学学士(2002)、日本教育学修士(2007)、言語文化学修士(2011)取得。1998~2003西ジャワ州ラジオの日本語レッスン放送担当、2003~2004翻訳・通訳、大学・語学学校の日本語の非常勤講師、2005年~現在、インドネシア教育大学日本語教育学科の常勤講師。2002年JALスカラー。2009年JAPANTENTの大使(インドネシア留学生代表)。2012年大阪観光大使。2015年WFWP関西地区留学生日本語弁論大会優勝。2018年度NF-JLEP訪日研究フェロー。