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  • 2019.11.26

トルコのチャナッカレ大学訪日フェローとの交流2019

  • -NF-JLEP Association事務局

石川県日本語・日本文化研修

チャナッカレ大学のNF-JLEPプログラムでは、奨学金給付事業の一環として、日本語・日本文化の理解向上を目的とした来日研修「石川県日本語・日本文化研修」を支援しています。この来日研修では、チャナッカレ大学の日本語教育学科で学ぶ学部生のうち、成績優秀者の中から小論文と面接の厳しい選抜に合格した5名が、毎年夏に3週間日本に滞在します。石川県国際交流センターにて日本語と伝統文化について学ぶと共に、それぞれ日本文化に関する課題を選び、調査活動と発表を行います。トルコから引率教師なしで来日し、金沢では一般家庭にホームステイし、日本語を使って日本人にインタビューを行うなど、実践的に日本語を学ぶチャンスであり、例年参加者の満足度が非常に高い研修です。

NF-JLEP Association事務局来訪

2019年度の来日研修に合格した、大学2年生のアブドゥルクッドゥス・ボズタシュさん、セハー・ジェヴィズさん、ミルザー・ムスタファ・オクユジュさん、ヨンジャ・ギュルさん、オウズハン・ムハメット・オルさんの5名が、2019年7月26日にNF-JLEP Association事務局を来訪しました。前日に日本に到着したばかりでしたが、疲れをみせずに、それぞれの日本語と日本に対する興味や、日本に関する小論文について発表しました。昨年の同プログラムで来日し、その後東京学芸大学に日研生として留学したギョクハン・ダーデヴィルさんも同行してくれました。

5名のフェローは、流暢な日本語で、詳しい調査をもとに日本の20世紀の成長や、現在の社会的課題について発表しました。トルコの若者の視点を通した日本は、日本人にとって新鮮で、発表を聞いたAssociation事務局の職員からは、真剣なコメントや質問がでて、興味深い議論となりました。発表内容の概要を紹介します。

各フェローの発表

最初に、グループリーダーのヨンジャ・ギュルさんが、チャナッカレ大学の紹介を行いました。チャナッカレ大学の教育学部に日本語教育学科が設立されたのは1993年で、当初は15人だった学生数は、現在は185人までに拡大しました。日本語教育学科の学生の活動は活発で、チャナッカレ市民に向けて週末に無料日本語コースのボランティア活動を行っています。クラブ活動としては、茶道部、書道部、音楽部、文芸部、演劇部(日本の劇をトルコ語化して上演する)、舞踏部、料理部など多数あります。一番人気は音楽部と料理部です。日本人の教師が結成した“アマテラス”というバンドがあり、ヨンジャさんはそのバンドのボーカルを担当しています。

次に、各フェローが、発表しました。子供のころ観たアニメ「名探偵コナン」が日本との出会いだったアブドゥルクッドゥス・ボズタシュさんのテーマは、「少子高齢化と労働力不足」でした。晩婚化、未婚化、医療の進歩等の少子高齢化の背景の説明から、社会保障制度の逼迫、労働力不足対策としての外国人労働者の受け入れ、その結果生じた課題として在日外国人の子供の教育問題などを取り上げました。アブドゥルクッドゥスさんの将来の夢は、言語と文化を教える語学学校を開いて、日本とトルコの関係を深めることです。

セハー・ジェヴィズさんも、日本の少子高齢化、介護、貧困格差、家庭内暴力、いじめ、外国人労働者などの社会問題について発表しました。研究所職員からは、貧困、家庭内暴力、いじめ、引きこもりは個別の課題ではなく、構造的につながっているとのコメントがありました。トルコでは、家庭内暴力は、夫から妻への暴力をさし、子供が親に暴力を振るうことはない、とセハーさんが発言し、トルコと日本の社会の差異が浮き彫りとなりました。セハーさんは、人の学びの役に立つことにやりがいを感じていて、将来、日本語教師を目指しているそうです。

ミルザー・ムスタファ・オクユジュさんは、「第二次世界大戦後の日本の経済成長」について発表してくれました。太平洋戦争後、日本は失業者が大量発生しましたが、1947年の独占禁止法による財閥の解体、土地改革などの大胆な政策により、経済が復活しました。日本経済の発展の理由は、保護主義的な経済政策に陥らなかったことにあるのではないか、との意見でした。研究所職員からは、朝鮮戦争による軍需が日本の経済発展に貢献したことも大きな要因では、とのコメントが

でました。

ミルザーさんも、将来、トルコと日本の友好に貢献できるようなキャリアを考えています。また、翻訳に興味があり、「源氏物語」の最初のトルコ語への直訳本を世にだしたい、という夢もあります。セハーさんも同じ意見ですが、トルコで親しまれている日本の小説や音楽は、日本語から英語に訳されてから、トルコ語に訳された作品が多く、その過程で作者が伝えたかった感情が失われている印象があり、できれば直訳の作品を出したい、とお二人は考えています。

ヨンジャ・ギュルさんは、「日本人の宗教的な考え方」について発表してくれました。戦前と戦後での天皇の位置づけの変化、神道、多くの日本人は無宗教と聞くが、なぜそれにもかかわらず、祭りや宗教的な儀式が多数あり、続けられているのか?との疑問をヨンジャさんは感じていました。研究所職員からは、日本人は無宗教というよりも、宗教は日本人の生活や自然の中に根差していて、無意識のレベルでの宗教観がある、との説明がありました。ヨンジャさ

んが感じた日本人の宗教とのかかわり方の印象から、我々日本人が自分の宗教観について改めて考える興味深い議論となりました。ヨンジャさんの将来の夢としては、日本のファッションをトルコに紹介するなど、日本との交流に関わる仕事を考えているそうです。

最後に、オウズハン・ムハメット・オルさんが「戦後から21世紀までの日本経済」について発表してくれました。日本史や日本経済に子供の頃から関心があり、日本語で文献を読むために、日本語を学び始めたそうです。戦後以降の日本経済の発展とバブル崩壊まで、詳細な資料に基づく完成度の高い発表でした。戦後の不況から、ドル円為替固定の中、外国投資を受け、高成長期への移行。その後の2回の石油危機、燃費の良い自動車や家電製品の製造によるさらなる成長、円高、不動産の過大評価、バブル崩壊まで、丁寧に分析していました。将来は、トルコの経済担当大臣になりたい、との抱負も語ってくれました。

 

 

NF-JLEP Association事務局訪問の後、5人は金沢へ移動し、3週間の日本体験を満喫しました。現地での課題は、“ヒトカラ”(一人カラオケ)と、日本人の“外食習慣”でした。日本人の孤食傾向などから、よりリアルな今の日本人の実態を学ぶことができたようです。アブドゥルクッドゥスさんは、「日本に来て、コンビニなどで働いている外国人が多いことに驚き、少子高齢化問題の重大さを実感することができた。」そうです。今回の滞在を通じて、さらに日本語と日本文化の理解を深めた5人の今後の活躍に期待します。